ゴムボート

水木しげる

心掛け

おれは挫折をしたことがない、挑戦したことがないから。努力もしたことがない。努力とまではいかない心掛け、自分ルールのようなものは毎日欠かさずにやっている。

会話の中で、間つなぎのためだけの軽薄で思慮のない常套句や相槌を使わない、ってのをやっている。

「なるほどね」「考えさせられますね」「間違いないっすね」「まあ人それぞれですよね」「忙しいときってめっちゃ忙しいですよね」「暇な時はめっちゃ暇なんですけどね」

人に耳くそを貯めさせるだけのこれら意味もない音声の分際を言ってしまうぐらいなら、いままでの会話の脈絡を壊し「オルガンって電気いらないんすよ」「8人でやるオセロ面白いですな」と戯言をいったり「ぴいぷぴいぴいぷう」「マリカー」とかの奇声を放ったほうがマシだ。

 

昔母が友人を家に招いて談笑していたら聞こえてきてしまった常套句がある。

「寝とったらかわいんやけどねえ」それは弟についてのことで、その言葉がその当時のおれにはショックだった。それが取り留めないただの間つなぎのブリッジだなんて当時知る由もないおれは密かに心を痛めた「起きとるときはかわいないんかそうかそう思っとったんか」

 

いまだに軽薄で内容のないテンプレートを使わないように心掛けている。

しかしアドリブ力のない人間なので、常套句が浮かびそうになると、用事を思い出したみたいに立ち去るか押し黙るかへらへらするかしかできてないので、厳格な自分ルールのおかげで誰とも会話ができなくなった。だって常套句は間つなぎにめちゃんこ便利だから。「まあ時間が解決してくれるでしょう」

 

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さようなら