ゴムボート

水木しげる

あったぜという話である

喜怒哀楽どれにもはまらないが、小学生時の、そういうことがあったことだけ憶えてるあったぜな出来事を思い出したので書くぞ!

 

母と弟と自分の三人でスーパーから帰ってきて、先に弟と一緒に家の前で降ろしてもらい、母は駐車しに向かった。

兄弟ふたりで玄関を開けると、イクノちゃんと知らん子供の声が二階のリビングから聞こえてきた。イクノちゃんというのは近所に住んでた自称漫画家のお姉さんで、たまにうちに来て自分の宿題を教えてくれたり、海苔の缶にヒステリックミニのキャラクターを描いてくれたりしていた。

二階から聴こえる声だけのイクノちゃんは、算数ドリルを開いて声だけの知らん子供に教えてるようで、内容はぼんやりだが音としての声ならはっきり聞こえた。

ここからはナゾ、不思議、妙としか言いようがないのだが、スーパーの袋をたずさえた自分と弟は、目を合わせて、お互い一言も発さず、というより二階の二人に声や気配を悟られないように、且、これは母には黙っておこう、とハイコンテクトなアイコンタクトを交わし、抜き足差し足で階段を登り、二階リビングの扉を開けた。誰もいなかった。というだけの話なのだが。この出来事は二人だけの秘密な、と弟と口約束したわけでもないのに、母が駐車場から戻ってきても、さっきまでのことを一切話さなかった。というより、口外してしまうと良からぬ事が起きるのではないかといった予感があったので自分からは勿論、弟からもこの件を話題にすることはなかった。

 

さようなら