ゴムボート

水木しげる

ホッケ

身、皮、別売りだったんかってぐらい箸で簡単に身を掬えるホッケだ。

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そのため開きにされる前のやつらは、強い水流と正面衝突すると皮が全剥けになる。そのめくれた皮は脱げ落ちることなく尾ひれでつっかえてまるでグッピーだ。つまりホッピーだ。ホッピーになった個体は大抵死ぬ。偶然生き残れたホッピーは塩辛く食えたものじゃない。だが真性ホッケは味がない。

真性ホッケが開かれ焼かれた状態で卓に供される。箸先を滑り込ませ、箸の腹も使って崩すことなく持ち上げれてしまったとき、私達は預言者のごとくこう悟る。「だが、これからは上手くいかないことばかりだ」

私達は、不幸とは落差のことだと心得てるばかりに、どうにか自分が喜ばないよう、思い上がってしまうその前に、あらかじめ細切れにしておいた諦念をそこにまぶす。健気な精神の処世術だ。もはや癖だ

 

さようなら