ゴムボート

水木しげる

漏れ

一階に住んでんだが玄関とこの天井から漏水してて見て見ぬ振りをしている。臭い液体をおれんとこの庭にばらまいた上階住人はおらんなってしばらくするってのに。友愛を込めて放置してきた雑草らはその臭い液をあびてから、草間彌生さながら白い斑点を浮かすようになった。

前回の漏水で管理会社を呼んだとき、天井の板をはずし、溜まってて水を抜いただけ、をやって帰っていって、次回完璧にやってくれるんだろと思ってたら一ヶ月立っても音沙汰無かったんでこっちからメールしたらすぐ電話がかかってきやがり、それに腹が立って電話に出なかった。そういえばあいつらやってきた時、ノックもピンポンもやらずに急にドアを開けてきやがったな「今から5分後ぐらいに伺います」と一報いれとけば、ノックもピンポンもやらんでよい奇特な考えの持ち主なんだなってことを思い出してしまったので、それから二週間毎日着信が入ったが、こっちも意地になってたんでね一度も電話に出なかった。

大家のおじいさんに電話してみると、あの管理会社には連絡せんといてください、法外な値段の修理費用を払わんとだめなんです、私は貧しき悲しき爺です、今晩も夫婦で白湯とポリッピーひと袋が飯なんです、街中の犬からも吠えられてます、勘弁してください、と私に狸寝入りをすすめてきた。私もラインスタンプの利益が毎月800円ある不労所得者の身として、形態はちがえど同じ不労所得者同士だもんなわかるぜということで提案を飲んだ。大家はさらに「安くてよい修理屋しりませんか?」と尋ねてもきたので、kawaii人だなと思った。おれはたまにマカダミアナッツやドライマンゴーを持ってきてくれる家主が好きなので、今しがたも漏水も見逃してやってる。バケツんなかで一分に一滴音が立つたび、借りてる側なのに貸しを作ってやってる気持ちになれて精神にすこぶるよい。爺はいままで二回ほど私の勤務先にまできて菓子を置いてったこともある。会社の人が「こういうの実際あるんですね」って言ってたがそれはおれだって同じ気持ちだった。来んなし。

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さようなら