ゴムボート

水木しげる

予選

畳から立つパタパタという音で目を覚ました。メガネを掛けて音の方に目をやるとティッシュケースほどの大きさの赤い水たまりが広がって、未だ撥ねている滴を寝覚めの目で追ったさきの天井にも赤黒い染みが広がっていた。

というかんじの、もう筆を折ったほうがいいホラー作家志望すら書かないようなベタすぎてダサい出来事がマジであったのだが、近づいて匂いを嗅ぐと赤ワインだった、っていうオチも実際あったことで、あまりにも嘘っぽくてベタすぎる話なので、もうこうなってしまえば嘘だということにしてお蔵入りにし人にも話してはいけない。

面白がられることを期待してそんな出来事を話ても、愉快に思われるよりも断然にコイツやっちまってんなと疑われるリスクのほうが高い、というより信じてもらえない。実際はこうして活字残しすることも憚ったほうが賢明。

目先の乾いた笑い欲しさに実際に自分自身起こったことだからと極めて主観に即しすぎた「事実だから」って理由だけで話していいとは思わない、厳正なる脳内選考の末に落としたほうが後々それが重要な保身であったことに気づける。そんな時が来る。

高校時代、登校直前に実家の玄関に車が突っ込んだ事があって、それを朝礼前にクラスの仲良い奴数人に話した事がある。

そりゃやっぱ皆驚いてて放課後に友達3人がうちの玄関の様子を見に来て結構盛り上がった。写メも撮ってた。

そしてしばらくしてまた、直ったばっかの玄関の壁のとこに車がぶつかって、それもすぐ学校で話したが、ちょいと前の玄関崩壊エピソードを話してから二ヶ月ほどしか経ってなかったので、クラスの大半はめちゃくちゃ疑っていた。おれも逆の立場なら勿論疑う。

そういった否定派の代表一人を現地に招聘し、事実を確認してもらった上、後日実地調査に来なかった他の否定派に事実を伝えてもらい皆肯定派に寝返ってもらった。

信じられない話しですが、それからまたしばらくしてまただれかの車がうちの玄関に吸い込まれ壊れたんですけど、前回、クラスの大半に疑われた件もあったので、こんな嘘みたいなこと当然黙っておこうと、黙っていたら、隣のクラスにいる通学路が同じの川井くんがやってきて「おまえんちの玄関壊れとったぞ!」と報告にやってきて、クラスの皆に「お前なんでそんな面白いこと黙ってた!」って言われたことがある。

ケータイの裏蓋が取れたのでAUショップに行ったら、誰一人お客さんがいなかったので、そのままカウンターにいって事情を告げようとしたら店員さん制され、あそこの発券機から整理番号とってきてくださいと案内された、そりゃごもっとだと思い発券機までいくとタッチパネル式で操作がよくわからなかったので、教えを請いにもっかいカウンターへ行きその旨を伝え、店員さんについていく形にまた発券機の前へ行き、整理番号を出してもらったその瞬間に、ポーンとカウンターの方から音が鳴り、自分が今持ってる整理券に印字された番号を呼ばれた。

そういう、誰かに話しても話したことにはならないぐらい馬鹿馬鹿しいほどベタな出来事にも遭遇したことがある。勿論言外にしたことはない、あまりにも聞き馴染みのある風な話だから。

それならば何を話せばいいのか。

私はちゃんと調べました。

寒すぎてキンタマつったとか、自然の家でしか見たことがないデカイ蛾を昨日家の中で見たとか、砂利まみれのサロンパス落ちてたとか、レッドブルのアニメつまんね とか記憶の中のメロンパンは旨いが実物はそうでもないですねえ。ぐらいしか話すことってないらしいです。大切にしていきましょう。

 

さようなら

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野宿のゆるキャラ、のじゅ君とヌンチャクのゆるキャラ、ヌンチャクン