書き出し小説勢から忘れられた掲示板、文芸ヌーに去年投稿した所さんが出てくる物語、加筆修正版を転載します。これが一番気に入ってるので。
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世田谷ウォーキング・デッド
世田谷ベースのシャッターは堅牢に閉ざされたままだった。
清水圭はそれでも所ジョージを呼び続けた。
「頼んますわ!所さん!すぐそこまでゾンビ来とるんですわ!」
二階の小窓から、清水圭がゾンビになっていく様子をビートたけしと一緒に見下ろす所さん。シャッターを引っ掻く、かつては清水圭だったゾンビの眉間にダーツの矢を一本打ち込み、所さんはこれからの冬に向けMA-1の改造にとりかかった。
有象無象のゾンビに集られ瞬く間にゾンビ状となったゾンビ清水圭。「アアアアアアア」とか「オオオオオ」しか発声できないゾンビ喉になり、見た目もゾンビになったが、精神だけはゾンビに明け渡していなかった。
その醜い呻きに微かな関西訛りが入ってるのを、小窓越しのビートたけしは聞いた。
それは、軽トラに轢かれた直後のアシカの咆哮にも聞こえた。
「なあ、あいつまだ人の尊厳みてえなのにしがみついてるよ」
所さんはMA-1にしこたまアップリケを貼り付けながら「あっそ」とビートたけしにドリームジャンボのCMのノリで返事した。
「オアアアオ、アアアア(大御所ともなればワイプで抜かれとっても頬杖崩さんし、ニヤケもせんでええから羨ましかったわ)」
さながらワイプとも言える小窓から見下ろすビートたけしを見上げながら、ゾンビ清水圭はゾンビ清水圭になったのをいいことに、ビートたけしへの愚痴を吐いた。
奇跡体験アンビリーバボーを思い出していたのだ。
するとそのとき、世田谷ベースのシャッターが音を立てながら5センチほど開いた、と思えばまた閉まった、と思えばまた5センチほど開いた、途端に閉まった。
それを幾度も繰り返されながら、ゾンビ圭は「オオオオ、オオオ(これは、所さんが得意とする、遊び心か?だとしたら笑われへんで」てな感じに呻いた。
ワイプ越しのビートたけしが、片側の顔だけを引っ張るようにして笑っている。
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これ勘違いしてたんですけどアンビリバボーでのビートたけしは、最初のVTR紹介みたいなところで一瞬でてくるだけで、VTRを観てる所をワイプで抜かれるってことはない。
世界まる見えとゴッチャになってた。
さようなら