ゴムボート

水木しげる

機動戦士

 書き出し小説勢から忘れ去られようとしている掲示板、メルマガも送られなくなって久しき『文芸ヌー』の作文スレッドへ去年みだりにふざけた長文、短文を投稿していました。そのうちのひとつを転載。

思いついたバカみたいなロボ「アイスランドガンダム」の語感からだけで見切り発進させたので終盤につれ収拾がつかない事になってますがだいぶ気にいってます。

 

 

                  *

またビヨークが、泥のついたガーゼをどこからかひらってきた。もう素面じゃやってられないみたいだ。
アイスランドガンダム(以下ILGとする)を修理していた私は、眼前でちらつかされたその汚い布を、邪魔だ、と手の甲で払いのけ、口に僅かに入ってしまった砂利を、プッと弾きとばし、ILGの人間でいうところのくるぶしの溶接を続けた。
ILGはビヨークにしか動かせない。ビヨーク自身の虹彩認証を済ませ、Human Behaviourの一小節を本人の声で歌いそこで初めて起動する。攻撃は、崖や近辺にある石くれ、岩くれをこそいで投げる。「岩投げ」を得意としている。小屋があり次第小屋も引き千切っては投げる。
コックピットはかつて、胸の真ん中あたりにあったカプセル状のへんなやつの中にあったが、ビヨークの加齢とリクエストに合わせ、腰、脹脛と降下し、いまや右のつま先となっている。
左のつま先も昨年まではコックピットとして機能していたのだが、アカデミー賞授賞式時に来ていた白鳥ドレスが、アクセルの隙間に挟まったり、アジフライがシートの隅に落ちて放置していた結果に異臭がしたり、最新アルバムVulnicuraのジャケットで着用していた無数の綿棒みたいなのが精密機器やサイドブレーキの隙間に入り込むもんだから、いまやもうゴミ屋敷同然の使いものにならず、異臭異汁が漏れ出ている。そのせいで左足周辺に生えていた芝生も枯れ朽ち、見たことがない色のキノコも生えていた。
いうてもババアなのでビヨークは。バリアフリー機能拡張のため、私が手すりを付けてあげていたのだ。コックピット入り口となるドアの蝶番も緩んでいたせいで隙間風がひどかったのも直した。
腰をかけるにはちょうどいい岩場で、今くるよのような服であぐらをかいたまま見たこともない色のキノコを齧っていたビヨークに完成を伝えると、その食べかけのキノコを投げ捨て、私に一瞥もくれずにすぐさま右つま先のコックピットに駆け寄ってドアノブをひねり中へ入った。やたらにふくよかでビビッドなドレスの裾を、締め切ったドアからはみ出させたままで。
腐って錆びた左足を引きずりながらではあるものの、全長が80メートルもあるとは思えないほどの快活な動きでILGは、大平原をウォーミングアップとばかりに轟音を立てながら駆け、群生していたヒナゲシを踏み散らし暫くすると、未舗装路を挟んだ向かいにぽつんと建ってあった白い小さな教会の前で立ち止まった。
きしきしとゆっくりかがみながら、LIGはその教会を片手で手中に収め、あっけなく持ち上げた。
バキバキと音を出すそれを、初代コックピットであった胸元にまで引き寄せながらさらに粉々に握りしめ、勢い良く振りかぶり、自分がいま搭乗し、操縦している右のつま先に叩きつけた。のだが、コックピットの屋根である足の甲が多少へこみ、教会全体に塗り込められていた白ペンキの剥離が、雪のようにはらはらと舞っただけだった。
コックピットのドアの立て付けも少し歪んでいたのか、内側から五回ほど蹴つりあげて脱出したビヨークは、勢い良く外気を吸い込んだ途端に、高笑いしながら、周りに散乱する先刻まで教会だったはずの建物を、その瓦礫をスマホで連射撮影していた。
まだ腹を押さえたまま笑いが止められず、高いヒールで柔らかい芝生や瓦礫の隙間を縫って小走りするものだから、よろめきふらつきでこっちに向かってきたビヨークは、さっき撮ったばかりの教会の残骸画像を、膝に手をつき息を整えつつ見せてきた。
一枚ずつスワイプしてくれていく中、これ、とビヨークは指を止めた。
ピンチアウトで拡大されたそこには、白い十字架の上の短い棒だけが、芝生に倒れているだけ、が写っていた。もっとよく覗き込んでといわんばかりに画面を差し出しビヨークは笑っている。
近所のダイエーのお惣菜コーナーのおばちゃん店員にやっぱ似てるなと改めて思った。目尻、口元とか。
その十字架の短い棒以外にあたる、Tの部分は粉々で見当たらなかったらしい。ミサのない平日でよかった。

                 *

 は?

 

 

文芸ヌーで唯一たまに更新をしているのがボーフラさんです。ボーフラさんの作品はだいぶ狂っててむちゃくちゃ面白い。すげえ文章には匂いみたいなのがあるんですがボーフラさんの文は一文字目から匂います。

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アイスランドガンダム

 

さようなら。