ゴムボート

あんたのシーシャ割りまっせ

リキッドルーム

書き出し小説にはまってた四年前ぐらいに書いた意味の解らない創作があったのでもったいないから載せときます。

 

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少年は親友のタダシをリキッドルームに招いた。
日頃から、眠たい、しんどい、暑い、寒いと同じぐらいの生理レベルに「リキッドルームってなんだ?」という疑問を常から心情に並べておいた少年にとって、リキッドルームを作るのは命題にも似たことだった。
テレビ、パソコン、雑誌などからTOKYOの情報として耳馴染みのあった「リキッドルーム」というなぜか気になる言葉のその語感から、少年は自分なりのリキッドルームを作った。
リキッドルームを作るにあたり、少年は参考としてリキッドの意味だけを調べた。液体という意味をそこで初めて知った。ルームが部屋というのは知っていた。
あえて「リキッドルーム」と検索窓に打ち込まなかったのは、自分が思い描く「リキッドルーム」を瓦解させるひどく無粋な行為だとわかっていたからだ。

同様に少年は「藤原ヒロシってなんだ?」という疑問も日々抱いていた。リキッドルームと同じくにTOKYOの情報としてなぜか見覚えのあった漢字とカタカナの組み合わせ、「藤原ヒロシ」をたびたび気にかけてしまう癖があった。
だからといって、性急に調べるほどのことではない、といったなぜか確信に近いものがあり、その時がくれば知ることになるだろうぐらいの心持ちで「藤原ヒロシ」が開示される日を、なんとなく待ちながら差し当たりの日々を過ごしていた。いつでも調べれるという余裕が、いつまでたっても調べない結果を作っていただけに過ぎないが。
ほどなくして、3日ほど立て続けにコンビニの雑誌棚やPC画面から「藤原ヒロシ」の文字列が目に飛び込んでくることがあり、それを天か某かの思し召しと受け取った少年は「やっとその時が来たか、意外と早かったな」と感慨少なめに、検索窓に「藤原ヒロシ」と打ち込み画像検索をした。少年は愕然とした。

PC画面にタイル状で行儀よく並ぶ長髪のおじさんは藤原ヒロシその人だったが、少年が待望するところの藤原ヒロシではなかった。
「しかし、こんなに長髪が似合わない人間がいるのか」というショックが少年に襲いかかった。
藤原ヒロシの住む界隈を取り仕切る傲慢な権力者かに「頭髪を伸ばしなさい。そりゃ肩まででしょ」と頓痴気な命令を受けたとしか思えないほどのそぐわなさを感じ、顔つきもどこか、その理不尽な長髪命令に異を唱えているような不平を浮かべたものに見えた。

少年は学んだ。現実が粗忽なほど無遠慮に提示する「正しさ」ってのは、人を挫かせるには充分すぎるということを。たぶん太田光がテレビで言ってた気がする。「切手のダビデ像のほうが美しかった」と。
少年は藤原ヒロシが並ぶPC画面を眺めながら太田光の言葉を反芻していた。所詮現実とは、人ひとりの中で醸造させていた思惑、想像を超えることが出来ない。頭の中のほうが美しいのだ。それと、過度な期待はしておくものではない。

その夜少年は、母の自転車を使って隣の市にある海浜公園へ行き、海を見た。朝焼けが顕になる前に家に帰った。

藤原ヒロシの件から得た教訓を踏まえて出来上がったのが「リキッドルーム」だった。
現実に存在するTOKYOのリキッドルームは知らないが、少年は自分の作ったリキッドルームが一番美しいと信じていた。頭の中からこの現実へ表沙汰にした事による凝固を、劣化を、まぬがれるなんてできないが、ほぼ頭の中で描いていた通りに、こぼれもせず、摩耗を極限にまで抑えられたリキッドルームが現前した。奇跡だった。

少年は完成したその日に親友のタダシを呼んだ。
翌々日の夕方のニュースに、社長が逮捕されてからいっそう荒廃した解体屋の、その敷地内にあったプレハブ小屋から、二人の溺死した少年の遺体が見つかった。二人の肺から海水が検出された。

 

 

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?????

 

さようなら